【読書感想:No.3】「EVと自動運転~車をどう変えるか~」鶴原吉郎著 〜自動運転の基本を知る本〜
「EVと自動運転~車をどう変えるか~」
著者:鶴原吉郎(技術ジャーナリスト)
出版社:岩波新書
出版年月:2018年5月
昨今は、自動運転を目指して名だたる企業が研究開発を進めていますね。CASE(Connected、Autonomous、Shared/Service、Electricの頭文字をとったもの)という言葉もよく聞かれます。
そのような中、本書はCASEの「電動化」、「自動化」、「コネクテッド化」と、その先にある「サービス化」に関して概説されている新書です。
2018年の本のため、最新情報ではないことに注意も必要ですが、基本的な自動運転を取り巻く自動車業界の流れについて知ることができます。
今回は、自動運転に必要な、電動化、自動化、コネクテッド化についての内容をまとめてみたいと思います。(サービス化については、各論のような形だったので今回は省略します。)
【本の概要】
- 「電動化」
⑴ ガソリン車やディーゼル車から、電動自動車(EV)への流れが全世界的に広がっている。その理由として、
① 欧州で排ガス規制が厳しくなったこと
② 2015年に発覚した、フォルクスワーゲン社のディーゼルエンジン不正事件から、世界的にディーゼル車への不信が高まったこと
が挙げられる。
⑵ 電動とディーゼルを両方用いるハイブリッド車(HEV)への新規参入はあまりない。この原因として、日本がすでにHEVに関しては高度な技術を保有しており、新規参入のターゲットから外されたことが挙げられている。 - 自動化
⑴ 2013年にトヨタが自動運転可能な技術を搭載した実験車を公開、その後に自動運転技術への注目が集まった。
⑵ 自動運転をするにあたって、自動車には「眼」と「頭脳」が必要となる。自動運転車の「眼」に該当するセンサーの「三種の神器」が以下の三つ。
① カメラ
日常的に使っているカメラと同じようなもの。
② ミリ波レーダー
波長が1~10mmの「ミリ波」を用いたレーダー。ミリ波を照射し、戻ってくるまでの時間を測定することで周囲の物体との距離を測定する。
③ LiDAR(ライダー)
レーザー光線を使ったレーダー。レーザー光を発し、跳ね返ってくるまでの時間から、 車両の周囲の物体を認識する。数cmの精度で物体の形状、距離を把握することができ る。
状況が複雑な一般道での自動運転にはLiDARが不可欠だが、高価であるのが難点。
⑶自動運転の「頭脳」に当たる部分がコンピュータで、受け取った情報を正しく認識し、正しく走行をすることが必要になる。情報を正しく認識するために、ディープラーニングが注目されている。
幹線道路などの一般道路における自動運転は、2030年頃が一つの目安になると考えられる。 -
「コネクテッド化」
一般道における自動運転の実現にあたり、以下の理由で「つながる」ことが必要になる。
① 運転しながら走行する地図(3次元情報)や、交通情報のダウンロードを行う
② 自動運転に用いるソフトウエアのアップデート
③ 車を用いた様々なサービスを提供する(サービス化) -
まとめ
自動車の「電動化」「自動化」「コネクテッド化」は、今までの「クルマ」の概念が変わっていき、移動方法だけでなく、都市設計、生活様式、価値観も変えて行くことになると考えられる。
【感想】
まず、電動化、自動化、コネクテッド化についてよくまとまっており、非常に面白く、勉強になりました。
その中でも面白かったのが、1.(2)の、ハイブリッド車(HEV車)についての記述で、「(他の企業が)参入しにくい分野は負ける」というものでした。少し説明しますね。
HEV車の分野では、日本企業が先にリードをしました。
その状況下、他国企業の多くはHEV車の技術で追随するのではなく、HEVを飛び越えたEV車の開発に力を入れるという方針を取るのです。
こうなって行くと、EV車の方に多くの資源が集まり、日本のHEV車における技術のアドバンテージを十分に生かす機会が得られなくなる可能性があると言うのです。
一般的に、「多くの企業が集まる分野にリソースが集まり、結果的にいい技術を持っていたとしても参入企業が少ない分野は廃れる」ということが起こりうる、と筆者はいうのです。
本書では具体例としてブラウン管に関して高い技術を持っていた日本企業が、液晶ディスプレイへの変化に対応できずに敗北を喫したことを挙げています。
つまり、「技術を持っているだけでは勝てない」ということを筆者は伝えています。
日本は歴史的にも、技術力で勝負してきた国ですが、技術だけを持っていてもマーケティングをうまくやっていかないと負けてしまうという、危機感を持ったメッセージを感じました。